ある医大生のぼやき

証券会社で勤務ののち、医学部に入学しました。

30代医師の専門医取得傾向と男女比率

巷ではJ-Osler導入後初の内科専門医試験が行われましたが、初期研修後に専門医を取るのか否か、取るのであれば何科で専門医を取るのか、という点は医師の人生のおいて重要な選択のように思えます。

今回は取得者が多い専門医はどういった科目か、男女でどの程度選択に差が生じているのかをまとめてみました。

用いたデータはこれまでと同様、「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」。この中に「医師数、平均年齢,年齢階級、性、取得している広告可能な医師の専門性に関する資格名及び麻酔科の標榜資格(複数回答)別」という項目があり、こちらを用いています。

各年代ごとにデータがまとめられているのですが、今回は若手である30代(30歳~39歳)の医師の専門医取得状況に焦点を当てます。本統計は複数回答のため、一人で2つ専門医資格も持っていればそれぞれの資格に1ずつカウントされます。

全体像

まず30代の医師数ですが、男性45674人、女性20821人の合計66495人です。比率にすると、男性69%、女性31%になります。医師全体で見ると男性255452人(78%)、女性71758人(22%)であることから、30代では女性比率が上昇していることがわかります。

30代男性医師

専門医取得状況

まず男性医師の専門医についてまとめたグラフが下記のとおりになります。首位に来たのは外科専門医。実に30代医師の8.8%が外科専門医を取得しています。外科は敬遠されている印象が強かったのですが、意外にも専門医資格の取得者数は多いようです。次点には総合内科専門医が続きます。どちらもまず最初に取得する類の専門医という側面がありそうです。そのため自然と取得者が多いのかもしれません。実際に消化器病専門医を取得するためには、外科専門医、総合内科専門医、放射線診断専門医、放射線治療専門医のいずれかを取得している必要があります。

具体的な診療科目に近い専門医資格でいうと3位以降が参考になりそうです。消化器病専門医は対象臓器が明確な専門医という点では首位になります。整形外科が4位に続きます。小児科専門医も5位とかなり上位に来ています。受給が逼迫している麻酔科標榜医・麻酔科専門医などの麻酔科関連資格も比較的多い事がわかり、この当たりは流行りもあるのでしょう。

(こうやってみると専門医も本当にたくさんの種類がありますね。。)

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外科専門医資格が取得者数で首位

男性比率の高い専門医

基本的に男性の占める比率は78%と高いのですが、平均よりも上位に位置する専門医資格については更に男性が集中していると言えます。特に外科系の診療科で90%を超える傾向にあるのがわかります。消化器外科専門医では96.9%に上り、ほとんど男性で占められています。

ただ、今回は複数回答が可能な統計なので憶測にすぎませんが、そもそも専門医の資格自体を取得する医師に男性が多い傾向がある可能性もあります。

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外科系の専門医では9割が男性

30代女性医師

専門医取得状況

次に女性医師の専門医取得状況を見ていきます。先述のように男性の場合は外科専門医、総合内科専門医が上位に来ており、ある程度その先のサブスペシャリティを見据えたような取得傾向がありました。女性の場合はまた違った傾向がありそうです。

首位に立ったのは産婦人科専門医。男性で言うところの総合内科専門医の比率に近いです。男性では産婦人科専門医は14位なので大きく差が出た診療科目と言えます。

次に多いのが麻酔科標榜医になります。麻酔科専門医も5位にあり、実に上位5科目のうち2つが麻酔関連の専門医で占められています。男性と比較してライフイベントにより仕事を中断せざるを得ない可能性が高い女性の場合、バイト等のフレキシブルな働き方を選択しやすい診療科が候補に上がりやすい、という側面があるのかもしれません。

一方で個人的に少ないな、という印象をもったのが皮膚科専門医です。もちろん男性よりは比率が高いのですが、全体で12番目に留まります。眼科専門医よりも少なく、専門医という点では優先順位は高くないのかもしれません。

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女性医師では産婦人科専門医が首位

女性比率の高い専門医

30代医師に占める女性の比率は21.9%ですが、それよりも比率の多い診療科は女性で人気の専門医資格と言えます。首位に来たのは44.2%の皮膚科専門医。皮膚科専門医は取得者自体はそこまで多くありませんでしたが、比率ではトップになりました。続いて眼科専門医が38.2%で2位。

女性の取得者数で首位だった産婦人科専門医は比率では全体5位。男性の産婦人科専門医取得者は少なくないため、比率としては34.7%に留まりました。

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皮膚科専門医が首位も5割は届かず

 

 

働き方と診療科③診療所・クリニック勤務が多い診療科

勤務先と診療科の関係を調べる本企画の第三段では、病床数20未満の診療所(≒クリニック)で働く医師の比率について検証しました。診療所の大部分を占める無床診療所であれば病院のような病棟管理もなく、当直もありません。患者の急変で呼び出されることも無いと思います。そういった意味で自由度の比較的高い職場と言えるのではないでしょうか。さっそく結果をみてみましょう。

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美容外科がトップ

美容外科が97.9%で圧倒的トップ

だいたい想像はついていましたが、美容外科が97.9%で首位となりました。自由診療が中心で他と毛色が異なりますが、勤務形態はほとんどが診療所勤務ということがわかります。神戸大学のように大学病院内に美容外科がある場合もありますが、レアケースですね。

心療内科、内科が続く

美容外科に次いで診療所勤務が多い診療科は心療内科となりました)。基本的には薬物治療・カウンセリングが中心となる診療科であり、大きな施設が必要ない診療科であることがわかります(精神科との違いや心療内科の定義については下記のリンクをご参照ください。

plaza.umin.ac.jp

 

3位にランクインした内科はかなりざっくりした分類ですが、主に町中で見かける〇〇内科クリニックなどのような総合内科・一般内科がこれに相当します(なお、「内科」の中には市中病院で規模がそこまで多くない場合に内科を標榜する場合も含まれますし、一線を退いてバイト中心で働かれてる先生などでとりあえず内科を標榜、という場合も含まれます)。分類の特性上、診療所勤務の比率が高くなっていると考えられます。

肛門外科は消化器外科の一部と考えられますが、入院を要しない処置が比較的多いことから開業される先生が多いのかもしれません。

 

働き方と診療科②市中病院勤務が多い診療科

前回の記事では特定の診療科目において大学病院で働く医師の比率についてまとめました。

desmoglein.hatenablog.com

今回はそれぞれの診療科目において市中病院に勤める医師の比率を調べてみました。まず結果を御覧ください。

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リハビリテーション科がトップ

平均的に48.7%の医師が市中病院に勤めている

まず、全体の傾向として平均の数値をみると、48.7%が市中病院に勤めていることがわかります。医師の半分は市中病院にいると言えます。大学病院で働く医師が18.1%でしたのでそれより多いですが、残りに相当するクリニック・診療所勤務の医師(=大学病院でも市中病院でもない)が33.3%というのは思っていたより多いな、というのが印象です。

リハビリテーション科が78.6%で首位

診療科ごとに比較すると市中病院で働く医師の比率が最も高いのはリハビリテーション科という結果になりました。リハビリテーション科という言葉に僕は馴染みが無かったのですが、「障害自体を治療対象に据え、リハビリを通じて生活の質を改善していくこと」に主眼があるようです。高齢者人口が増えていく日本において需要が伸びそうな印象を持ちました。

www.murayama-hosp.jp

外科はひとまとめにされがち?

リハビリテーション科の次に来たのは70.4%の外科になります。大雑把な括りですが、心臓血管外科などのように専門部位を記していない=ある程度の範囲をカバーしている総合外科的な立ち位置の診療科と考えられます。分析に用いた統計において、大学病院以外で病床20以上を持つ医療施設は市中病院に分類されますが、小規模、もしくは人繰りの関係で細かく診療科目を分けていない病院が多いのかもしれません。

美容外科が最下位

最下位に来たのは美容外科で、その比率は1.0%となりました。大学病院でも極めて比率は小さいことから、基本的には診療所・クリニック中心の診療科目ということがわかります。

ランキング

診療科ごとに医師の忙しさを比較した記事になります。全て開業医を含む数値なので、開業医を除いた場合の計算及びランキングも今後作る予定です。

desmoglein.hatenablog.com

desmoglein.hatenablog.com

desmoglein.hatenablog.com

desmoglein.hatenablog.com

desmoglein.hatenablog.com

desmoglein.hatenablog.com

働き方と診療科①大学病院勤務が多い診療科

働き方の選択肢が多いことが医師の特長の一つですが、診療科目によってある程度勤務先に特色が出るのも想定されます。美容外科に従事する医師はほとんどがクリニック勤務でしょうし、チーム医療の色合いが濃い(と少なくとも僕は捉えている)外科などは病院勤務が多いのではないでしょうか。そういった診療科ごととの特色を今回はまとめてみます。シリーズ第一弾は大学病院を対象にします(大学病院以外に、市中病院≒大学病院以外の病院で勤務する医師、診療所を開設=開業医の診療科についても分析する予定です)。

用いているのはいつもの統計です。

www.mhlw.go.jp

 

統計上で「医育機関附属の病院」となっている項目が大学病院になります。厚生労働省による「医育機関附属の病院」の定義は、

学校教育法に基づく大学において、医学又は歯学の教育を行うことに付随して設けられた病院及び分院

となっています。以下、結果です。

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診療科ごとの大学勤務比率

全体平均は18.1%

まず医師全体で大学勤務をしている医師の比率は18.1%です。したがって、この数値より多ければその診療科は大学勤務で働く医師の比率が高いと言って良いでしょう。

気道食道外科が1位

最も大学病院での勤務比率が高かったのは気道食道外科で69.6%という結果になりました。圧倒的に他の科目より比率が高いため、「気道食道外科」という標榜が大学病院に多い可能性がありそうです。人数を確認すると、気道食道外科が主たる診療科である医師数は794人のみ。消化器外科の8962人と比較して少ないことがわかり、気道食道外科という分類自体が少数派のようです。

次点には49.5%の小児外科が来ました。ある程度の大規模病院、つまりリソースの揃っている病院でないとできないという事情があるかもしれません。小児外科を一般外科と別に分けて持つためにもある程度の規模がないとできないという側面もありそうです。

内科系ではリウマチ科が首位

上位2つの診療科は外科系ですが、3位から5位までは内科系の診療科が並びます。3位のリウマチ科が48.5%、4位感染症内科は47.3%、そして5位の血液内科が44.2%となります。医師の業務自体あたらしい知見が常に求められ、研究と切っても切れない関係にある印象ですが、この3つの診療科についてはより大学との結び付きが強く学問的なのかもしれません。もしくは、潜在的な患者数が少なく、大学に集約されている可能性もありそうです。

 診療所や市中病院が多い診療科は下位

 当たり前ですが、下位に来ている美容外科や肛門外科などは大学病院ではほとんど無い診療科ということになり、診療所や市中病院で多い診療科と言えそうです。ちなみに美容外科では1%ほどが大学病院勤務となっています。気になったので調べたところ、神戸大学には美容外科が診療科として存在しているようです。

www.med.kobe-u.ac.jp